【前編】田沢切手・大正毛紙の後期毛紙の用紙判定方法を考えてみた

 ビジュアル日専 田沢切手編によると、大正毛紙の用紙は最初期毛紙、初期毛紙、中期毛紙、後期毛紙の4種類の用紙に分けることができる。この分類ができると、各切手の印刷色の分別が容易になるので、何としてでも対象の切手がどの用紙なのか特定したい。とはいっても、こちらは用紙を特定するための知識は皆無である。そこで、解析的に用紙の特徴を調べていく必要がある。問理由で、今回は田沢切手・大正毛紙の後期毛紙の用紙の特徴を調べてみた。

 大正毛紙の4種類の用紙を田沢切手(大正毛紙)3銭切手の用紙の分類に挑戦してみたで分類に挑戦したのだが、顕微鏡でいくら見てもどの切手がどの用紙なのかさっぱりわからない。なんとなく、着色繊維が多いものはあるのだが、紙の材質が2種類あるように見えるので、どちらが最初期毛紙なのかもわからない。これでは埒が明かないからと、確実に後期毛紙であることがわかるものがないか調べたところ、大正毛紙13銭切手は後期毛紙のものしかないことがわかった。と、いうわけで大正毛紙13銭切手の用紙を詳しく調べることとした。というわけで、状態が良さそうなものから合計20枚を無作為に選んでみた。

 切手の用紙を判定するにあたり、どのような写真が必要なのか調べたところ、表の5種類の写真があれば用紙をほぼ特定できるようだ。

撮影部位焦点距離 / 光線利用目的
全体(表)h60 / 正面光地合い・斑点分布(面として)
全体(裏)h60 / 正面光斑点の分布・縦横の並び
無地部(裏)h10 / 正面光繊維密度・繊維長の分布・色毛の量感
無地部(裏)h4 / 斜光色毛の太さ、色、先端形状
目打ち部(裏)h4 / 正面光毛羽の量・束/単繊維・断面の荒さ
特徴に基づく用紙判定に必要な写真リスト

 また、大正切手 (「日専」を読み解くシリーズ)によると、この4種類の用紙は下記4種類の項目を総合的に判断して決定するとある。本当はこの判断軸に従って用紙を特定したいのだが、こちらの環境ではどうやって見ても、後期毛紙であるにもかかわらず透かしてみたときの斑点が出ないものが多い。また、使用済み切手しか手元にないので、目打ちの先端の繊維の毛羽立ち具合も状態が良くない。紙の表面の滑らかさについては、裏面には糊が残っていたり、残っていなかったり、添付された台紙から剥離する際の水洗いの影響等を考慮すると、観察結果をそのまま受け取って良いのか不安が多い。となると、この本に記載の判断項目のうち、確実に使えるものと言ったら着色繊維の多少だけになってしまう…

  1. すかしてみたときの斑点
  2. 目打ちの先端の繊維の毛羽立ち具合
  3. 抄き込み着色繊維の多少
  4. 紙の表面の滑らかさの度合い

 この情報だけでは全く用紙を特定できないので、別の判断軸が必要になる。手元にあるサンワダイレクトのUSB 4K 840万画素の顕微鏡は繊維構造を見ることができるほど拡大できるので、写真から原料を推定する方法を検討することにした。そこで、焦点距離h10とh4の写真から原料の割合をAIで調べることにした。繊維構造は立体構造で見ると良いらしいので、無地部h4のみ遮光の光を当てて写真を取ってみる。比較のために同じアングルの正面光と遮光の写真を撮影してたところ、違いは顕著で、遮光の方はぱっとみで繊維がよく見える。この傾向は焦点距離が短いほうが顕著に現れる。このように繊維の立体構造を理解するためには遮光が必須のようだ。

正面光の場合の繊維構造
遮光の場合の繊維構造

 というわけで、まずは5枚の切手ごとに先程の表に示した5種類の写真を使って、AIで繊維の原料を調べたのだが、どうも想定と違った原料の比率となってしまう。本来、後期毛紙の大部分はさらし亜硫酸パルプである必要があるのだが、5枚全ての切手で想定よりも大幅に木綿が多く50%前後、さらし亜硫酸パルプは30%前後、そして用紙の骨格は木綿であるとなってしまう。この調査結果に対する正誤はよくわからないのだが、少なくてもビジュアル日専 田沢切手編に記載の原料比率とは大きく異なる結果となった。

 心配になったので、今回調査に使用した13銭切手の発行年月日を調べると、1925年9月15日となっており、後期毛紙はそれよりも1年位早い段階から使用されているので、中期毛紙から後期毛紙に段階的に移行したとしても、さらし亜硫酸パルプが多いと判定される切手がAIによる判定結果よりももっと多くなるはずである。というわけで、なぜ木綿と判定されてしまうのかさらに調査が必要そうだ。

 なぜ木綿多い結果となったか調べたところ、後期毛紙の原料はさらし亜硫酸パルプ85%、木綿10%、ワラ5%となっているが、用紙としての骨格を決めるの太い部分と細い部分も混在し、しかも長くねじれている木綿であり、木綿が絡み合って面を構成し、細くて短く均一なさらし亜硫酸パルプがその隙間を埋めているということ、表面写真で見えるのはあくまでも表面構造だけであり、さらし亜硫酸パルプは内部の隙間を埋めるように数多く存在するものの、表面写真では目立たないいこと、が起きているらしい。

 AIによると、写真から用紙の原料とその比率を特定することを諦めても良く、むしろ写真に映る特徴を調べる方が効果的に後期毛紙の用紙を特定できるようだ。特徴判定に必要な写真は先程とほぼ同じでもよさそうだったが、原料推定では正面光ばかりだったが、斜光を使うほうが立体構造を理解しやすいことがわかったこと、繊維構造は印刷面で見るとインキ越しで繊維を見ることになってしまうこと、印刷時の表面処理で繊維構造が変わることから、一部写真は遮光を使うことと全て裏面を使うことの2点の改良を加えている。一方、裏面は抄紙構造の生データを見られるらとのこと。

撮影部位焦点距離 / 光線利用目的
全体(裏)h60 / 正面光地合いが均一すぎない/毛紙感
無地部(裏)h10 / 斜光繊維が重なり合う多層構造
無地部(裏)h4 / 斜光繊維が自然に消える(切断感なし)
目打ち部(裏)h4 / 斜光長繊維の毛羽立ち・房状の飛び出し
改良した特徴に基づく用紙判定に必要な写真リスト

後編に続く

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