前回は顕微鏡を使って旧小判20銭 こい青で中期白紙の確定標本を作ったので、今回は旧小判50銭 明るい紅赤を使って白紙薄紙の確定標本作成に挑戦してみようと思う。
旧小判50銭 明るい紅赤について
旧小判50銭 明るい紅赤は1879年(明治12年)から1889年(明治22年)の約10年間発行された切手である。旧小判50銭は比較的入手するのが難しいが、電信料金の支払いで使用されたこともあり、消印などを選ばなければなんとか入手できるように思う。
ビジュアル日専 小判・菊切手編によると、使用されている用紙は白色薄紙、木綿紙(粗紙)、中期白紙、後期普通紙の4種類である。白色薄紙と木綿紙(粗紙)の主要原料は木綿、中期白紙と後期普通紙の主要原料はワラである。旧小判50銭は白色薄紙が他の額面と比較して多い傾向にあるようで、相対的に白色薄紙の確定標本を作成するのに適している。一方、木綿(粗紙)は少ないようだ。
白紙薄紙の定義
大蔵省印刷局百年史によると蒼白薄紙と記述されており、原料は木綿100%とのこと。そして、白色薄紙は上等輸入紙だと推測しているようだ。定義からはずれるが、旧小判切手の最高額面である旧小判50銭 明るい紅赤は国産の低品質な木綿(粗紙)ではなく、額面にふさわしい輸入上質紙の白色薄紙を使用したのかもしれない。
また、観察的特徴はビジュアル日専 小判・菊切手編が詳しく、白色薄紙は1878年(明治11年)~1888年(明治12年)までの短期間だけ使用され、蒼白な厚さ50~60μmの輸入紙で、小判切手で使用された用紙の中で最も薄いようだ。原料は木綿、斑点はほとんど見えず、横方向に緻密な繊維が見えるようだ。
白紙薄紙の観察ポイント
定義や観察的特徴から考えると、白色薄紙を他の用紙と区別する方法は、原料が木綿100%の上等紙であこと、蒼白かつ厚さ50~60μmであることが基準になりそうだ。ただし、中期白紙の1種にも色が白くて薄手の用紙がごく一時だけ使われていた。白色薄紙の主要原料が木綿であるのに対して、こちらの主要原料はワラなので、木綿とワラの繊維の違いを見分けた上で、木綿の用紙を選ぶ必要がある。


白紙薄紙の観察
調査対象は2枚。調査対象うち、1枚は後期普通紙、もう1枚はワラの繊維よりも明らかに太く、こちらが白色薄紙であると判断した。
白紙薄紙の全体傾向
確定標本を使って、後期普通紙の印刷面と裏面中央と目打ちの特徴を調査した。印刷面・裏面中央・目打ちから読み取れる共通的特徴をAIで解析してまとめるとこんな感じ。工程は概ね安定しており、初期的ばらつきを脱した中〜やや高成熟段階にあるようだ。旧小判期の中でも、工程の安定が感じられる整った品質であり、最高額面に用いられていても違和感のない紙質である。裏面からもはっきりと図案が透けて見え、薄手の用紙であることが一目でわかる。


| 観点 | 共通的に言えること | 鑑定上の意味 |
|---|---|---|
| 繊維長 | 短〜中程度主体。極端に長く直線的に走る繊維は少ない。部分的に軽い束状集合はあるが骨格的長繊維は目立たない。 | 長大木綿主体紙の可能性は低め。均質化された中庸繊維系の紙質傾向。 |
| 繊維形状 | 細く比較的均質で、強く主張する太繊維は少ない。繊維端は目打ち部で細かくほぐれる。 | 太く硬い繊維骨格紙ではない。破断形状が丸く出る均質系紙の特徴。 |
| 地合い | 概ね均質。大きな雲状ムラや厚薄差は見られない。軽度の視覚的濃淡差はあるが構造ムラは弱い。 | 工程は安定段階。粗紙的な未成熟地合いではない。 |
| 繊維分布 | 面内に概ね均一分散。斜光で弱い一方向配向が確認できるが、強配向ではない。 | 抄紙時の流れ制御が効いた状態。極端な流れ偏重紙ではない。 |
| 毛羽 | 目打ち部では細かい毛羽立ちが均一に出る。長大な裂けや層剥離は少ない。 | 均質紙特有の圧縮破断型。長繊維骨格紙や層状脆弱紙ではない。 |
| 異物 | 微細黒点は散在するが粗大片・導管片状の夾雑物は目立たない。 | 原料精製度は比較的高い。未処理粗原料主体の紙ではない。 |
| 繊維の連続性 | 長繊維が印刷線を大きく横断する様子は少なく、インク境界は比較的安定。 | 印刷線が暴れにくい均質系紙。拡散は穏やかで制御された挙動。 |
各部位の詳しい分析結果は個別にまとめるが、それらを簡単にまとめるとこのような特徴がわかった。
| 写真タイプ | そこで特に強く言えること | 補足 |
|---|---|---|
| 印刷面 | インク境界は比較的安定し、暴れが少ない | 長繊維による大きな引き裂きは見られず、均質紙らしい穏やかな拡散挙動を示す |
| 印刷面 | 表面は概ね緻密で繊維突出が弱い | 粗大繊維束の突出が少なく、線再現性が安定しやすい状態 |
| 裏面中央 | 弱い一方向配向が確認できる | 斜光で流れ方向に寝た繊維が認められるが、強烈な単一方向構造ではない |
| 裏面中央 | 地合いは概ね均質 | 大きな雲状ムラや顕著な厚薄差は見られず、工程安定段階を示唆 |
| 目打ち | 破断は圧縮を伴う丸み型 | 鋭利なせん断というより機械打抜き由来の押し潰し型破断形状 |
| 目打ち | 毛羽は細かく均一 | 長大骨格繊維の裂けは少なく、突出は短く整う傾向 |
また、出現しやすい特徴と観察部位がわかる表も作成してみた。結果は、後期普通紙と同じだった。また、ワラ紙とエスパルト紙と近い傾向を示している。
| 観点 | 印刷面 | 裏面中央 | 目打ち |
|---|---|---|---|
| 繊維長 | △ | ◎ | ○ |
| 繊維形状 | △ | ◎ | ○ |
| 地合い | ○ | ◎ | △ |
| 異物 | △ | ◎ | △ |
| 毛羽 | △ | ○ | ◎ |
| インク挙動 | ◎ | ― | ― |
印刷面の観察
続いてAIで個別部位の観察してまとめてみる。簡単に言うと、この繊維が短く細いこと、用紙は繊維配向が確認できないこと、繊維にややばらつきがあるようだ。目視で見た印象はワラの繊維ほどではないけれども、参考の木綿の繊維と比べると少し細いように思う。また、不透明粒子の夾雑物とあるけれども、実際は用紙が薄いために裏の台座の色が写っているためである。
- 繊維は短〜中程度主体で細く、やや絡み合いながら分散しているが、局所的に軽い重なり塊が見られる。
- 繊維は明瞭な一方向流れは弱く、部分的に緩い配向があるものの、全体としてはランダム性が比較的強い。
- 地合いは概ね均一だが、インク下では微細な濃淡差が生じており、完全な均質ではなく軽度の面ムラが確認できる。
- 微細な黒色〜濃色点が散在し、一部に小さな不透明粒子状の夾雑物が確認できるが、量は多くない。
- 毛羽は細く短いものが主体で、寝た毛羽が多いが、部分的に繊維端がわずかに浮き上がる箇所がある。
- 繊維密度は大枠では均一だが、印刷線付近ではインクの浸透に伴う視覚的な疎密変化が生じ、局所的にやや密に見える部分が存在する。


裏面中央の観察
今度は地合や繊維がわかりやすい裏面を観察してみる。目視の印象としては、良く押しつぶされているように思う。
- 繊維は短〜中程度主体で細く、やや絡み合いながら全体に分散しているが、部分的に繊維束状の軽い集合が見られる。
- 明瞭な一方向流れは弱く、配向は不明瞭で、繊維は比較的ランダムに交錯している。
- 地合いは概ね均質だが、淡い赤色の裏写りにより軽度の面内濃淡差が生じている。構造的な大きな厚薄ムラは目立たない。
- 微細な黒色〜褐色点が散在し、粒径は小さいが、印刷面よりやや視認しやすい夾雑物が含まれる。
- 毛羽は細く短いものが主体で、面に沿って寝ているものが多いが、一部にわずかな浮き繊維が確認できる。
- 繊維密度は全体として均一傾向だが、淡色部と裏写り部で視覚的な密度差がわずかに感じられる箇所がある。


目打ちの観察
続いて目打ちを観察する。目打ちから読み取れたことを一言で言うと、繊維は比較的均質で、圧縮を伴う安定した目打ち加工が施された、整った紙質のようだ。
- 切断面は全体としてやや丸みを帯びており、鋭利な刃物的せん断というより圧縮を伴った押し抜き破断の形状を示す。
- 歯先頂部には繊維の毛羽立ちが明瞭に見られ、短繊維のほつれとともに、引き伸ばされて残存する繊維端が確認できる。
- 歯ごとの外形は概ね整っているが、頂部の丸みや繊維残りの量には軽微なばらつきがある。
- 切断縁近傍はわずかに圧密して見え、内部より繊維が詰まり、層構造が押し縮められた印象を受ける。
- 比較的長い繊維が歯先や側縁から外側へ突出している例が複数確認でき、部分的に絡み合いながら残存している。
- 大きな縦裂けや層状剥離は見られず、打抜き方向に対する破断は安定しており、全体として均衡の取れた目打ち加工状態である。


繊維配向の観察
最後に、長辺方向と短辺方向からそれぞれ斜光を当てて、繊維配向を読み取ってみる。本写真では、繊維は完全なランダム配列ではなく、全体として緩やかな流れ方向を持つ傾向が確認できる。斜光方向を変えると反射の出方が変化しており、一定方向に寝た繊維群の存在が示唆される。明瞭な強配向というほどではないが、繊維の長軸が概ね一方向にやや揃う弱い主配向が認められる。一方で直交方向には短繊維や交差繊維も混在している。総じて、緩い一方向配向を基調としつつ、交錯繊維を含む中程度の配向構造と読み取れる。


この白紙薄紙を特定する方法の応用
今回の結果をまとめると、白紙薄紙は裏面からもはっきりと図案が透けて見え、薄手の用紙であることが一目でわかることから、色が白く、かつ裏面からもはっきりと図案が透けて見えること、顕微鏡観察により繊維が木綿であることを手がかりに分類することができそうだ。白色薄紙が使われた旧小判切手の額面は旧小判1銭 黒、2銭 オリーブ、3銭 黃だいだい、4銭 青緑、5銭 明るい茶、10銭 明るい青、50銭 明るい紅赤の7種類がある。今回まとめた白紙薄紙を分類する方法はこれらの額面に応用できると思われる。
まとめ
前回の中期白紙に続き、今回は旧小判50銭 明るい紅赤を用いて白色薄紙の確定標本作成に挑戦した。文献上、白色薄紙は木綿100%を原料とする上等輸入紙で、厚さ50〜60μmと小判切手中で最も薄い用紙とされる。顕微鏡による実体観察では、裏面から図案が明瞭に透過する薄さに加え、繊維は短〜中程度で細く均質に分散し、地合いも安定していることが確認できた。目打ちは圧縮を伴う丸み型破断で、長大な裂けや層剥離は見られず、工程の安定を示している。斜光では弱い一方向配向が認められるが、強配向ではない。総じて、本個体は旧小判期の中でも成熟度の高い整った紙質を示し、白色薄紙の特徴をよく体現する標本といえる。
