切手用紙の工程にある⑤抄紙工程では抄紙機を使うのだが、明治時代の抄紙機には2種類の方式がある。今回は2種類の方式の違いが、切手用紙にどのような違いとして現れるのか調べてみた。
長網式と円網式の違い
抄紙の2種類の方式とは図と表にまとめた円網式と長網式のことである。円網式は水槽の中で円筒の網を回し、そこに紙料を吸いつけて作る方式である。吸い上げるように繊維が付くので、配向はそれほど強く出ない。その結果、繊維はやや絡み気味になり、地合いに濃淡が出やすい傾向がある。切手用紙としては裂け方や強さに大きな方向差は出にくい特徴がある。
一方、長網式とは紙料を平らな網の上に流し、そのまま一定方向に網ベルト上を走らせながら水を落としていく方式である。この方式は流れが一方向なので、繊維もその方向に引きそろえられやすい。その結果、紙には方向的な流れが出やすく、裂け方や伸びにも向きが出る傾向がある。切手用紙としては地合いは比較的整いやすく、印刷も安定しやすい特徴がある。
| 項目 | 円網式 | 長網式 |
|---|---|---|
| 構造〜形成の特徴 | 水槽内で円筒状の網を回転させ、内外圧で繊維を吸着させながら層状に形成する方式 | 平らな長いワイヤーが一方向に走行し、その上に紙料を流して下方へ脱水しながら連続形成する方式 |
| 繊維挙動 | 水流が局所的で、回転と吸引の影響により配向が弱まりやすい | 流れ方向に引き伸ばされ、繊維が機械方向(MD)に揃いやすい |
円網式と長網式の用紙の特性の違い
繊維の挙動を比較すると表のようになる。簡単に言うと、円網式は繊維の向きがそろいにくく、やや絡み気味で塊っぽく見える。光のムラや濃淡はランダムに出やすく、にじみも方向差が少ないのが特徴となる。一方、長網式の紙は、繊維が流れ方向にそろいやすく、全体にまっすぐ伸びて見える。地合いは比較的きれいで、光を当てると流れの向きが感じられることがある。インクは流れ方向にわずかににじみやすく、異物も並んで見えることがある。今後、このような特徴差が実際に現れるのか調査してみたい。
| 観点 | 円網式 | 長網式 | 観察時のポイント |
|---|---|---|---|
| 繊維分離度 | やや絡み感が残る | 分離が進んで見えやすい(流れで引き伸ばされる) | 顕微鏡で繊維が一直線に伸びるか |
| 繊維の太さ感 | 塊状に見えることあり | 太さのムラが方向に沿って見える | 太繊維が“帯状”か“点在”か |
| 繊維配向 | 弱い・ランダム寄り | 強い一方向性(MD方向) | 透過光で流れ方向が出るか |
| 地合い(均一性) | やや局所ムラ | 比較的均質 | 光にかざしたときの濃淡ムラ |
| 表面の緻密さ | 局所的に粗密差 | 均一に締まりやすい | インクの微細エッジの出方 |
| 光の反射 | 比較的均一 | 方向依存あり | 傾けたときの光沢の流れ |
| 異物・着色点 | 点在的 | 流れ方向に並ぶことがある | 異物の“並び”の有無 |
| 色味の見え方 | 比較的安定 | 流れ方向で濃淡差が出ることあり | 同一インクでの色ムラ |
| 解像度耐性(印刷) | 滲みが比較的均等 | 線が流れ方向にわずかに滲む傾向 | 細線のにじみ方向 |
旧小判切手における抄紙方式
旧小判切手で使われた用紙と抄紙方式の関係は概ね表のようになる。()付きの抄紙機は稼働時期を考えると使用していた可能性があるものである。旧小判切手では後期普通紙まで円網抄紙機が使用されていた。そして、後期普通紙は円網抄紙機(第3号抄紙機)と長毛抄紙機(改造第2号抄紙機)が使用されていたとのことなので、用紙の特徴としては異なっている可能性が高い。つまり、後期普通紙の用紙の特性を観察する必要がある場合は、複数の判定基準を考慮したほうが良いかもしれないので注意が必要だ。
| 切手用紙 | 製造国 | 抄紙機 | 抄紙方式 | 主要原料 |
|---|---|---|---|---|
| 厚手無地紙 | 輸入 | 不明 | 不明 | 木綿 |
| 無地紙 | 輸入 | 不明 | 不明 | 木綿 |
| エスパルト紙 | 輸入 | 不明 | 不明 | エスパルト |
| 白紙薄紙 | 輸入 | 不明 | 不明 | 木綿 |
| 木綿紙(茶紙) | 国産 | 第1号抄紙機 | 円網式 | 木綿 |
| 木綿紙(粗紙) | 国産 | 第1号抄紙機 | 円網式 | 木綿 |
| ワラ紙 | 国産 | 第2号抄紙機 (第1号抄紙機) | 円網式 (円網式) | ワラ |
| 中期白紙 | 国産 | 第2号抄紙機 第3号抄紙機 (第1号抄紙機) | 円網式 円網式 (円網式) | ワラ |
| 後期普通紙 | 国産 | 第3号抄紙機 改造第2号抄紙機 (第1号抄紙機) (第2号抄紙機) (第4号抄紙機) | 円網式 長網式 (円網式) (長網式) (円網式) | ワラ |
まとめ
抄紙方式の違いは、単なる機械の構造差ではなく、繊維の並び方や地合い、印刷適性にまで影響することが分かった。長網式は流れによって繊維が揃いやすく、方向性のある安定した紙になりやすい。一方、円網式は吸着によって形成されるため、配向は弱く、ややムラのある紙になりやすい。また、円網抄紙機と長網抄紙機が混在する用紙は後期普通紙のみであることがわかった。旧小判切手の用紙を分類する際には、木綿系とワラ系で抄紙機・抄紙方式の違いによる特徴がどこまで見えるのか観察してみたい。

